🔬 研究紹介
臨床心理学, 家族心理学, 教育心理学, 青年心理学
研究の基本理念
臨床心理学とコミュニケーション研究の融合を通じて、現代社会における対人関係の問題や不適応に焦点を当てた研究を行っています。特に、家族療法・ブリーフセラピーにおける「システム理論」や「コミュニケーション理論」を理論的基盤とし、学校・家族・恋愛・職場といった日常的な人間関係の中で生じる葛藤・排除・不適応の心理的プロセスを明らかにすることを目的としています。そして、得られた知見を心理支援や教育的介入の実践に還元することを目指しています。
「空気」がいじめを生み出すメカニズムの解明
「空気を読めない」と認識された人物が、友人集団の中で攻撃や排除の対象となるメカニズムについて、心理学的に実証的なアプローチで研究を進めています。たとえばこれまでの研究の中には、「空気を読めない」と感じたエピソードを自由記述形式で収集し、テキストマイニングによって分析・類型化したものがあります。ほかにも、「空気を読めない」と認識された人物に対する行動を分類し、それぞれの行動がどのような動機に結び付いているのかを検討しています。さらに、こうしたプロセスを測定可能にするため、「空気を読めないと認識された人物に対する行動尺度」を開発し、その信頼性・妥当性の検証を行っています。現在は、攻撃行動の発生や過激化を説明する心理モデルを構築・検証しています。
デートDV加害者の「見え方」と関係維持の心理メカニズム
恋人間の暴力(デートDV)についても研究を続けています。なぜ被害者は暴力を受けても交際を続けてしまうのかという問いに対して、被害者からは加害者がどのような人物に見えているかという主観的認知に着目した心理学的研究を行っています。被害者が加害者をどのように認識しているか(例:協調性が低い/怒りっぽい/依存的な愛着傾向)を分析し、それが「別れられない理由=コミットメント」にどうつながるのかを明らかにしています。そして3か月間の追跡調査により、被害者の認知がどのように変化するのかを検証しています。このように、デートDV被害の背後にある心の動きと関係維持の複雑なプロセスを明らかにし、予防教育や支援介入の理論的基盤の構築を目指しています。
家族療法・短期療法の効果的な手法の開発と効果検証
カウンセリングにおいては、家族療法やブリーフセラピーを専門に実践しています。ブリーフセラピーでは近年、「スリー・ステップス・モデル」という、これまでの家族療法・ブリーフセラピーの手法を統合した新たな治療モデルが提唱されています。このモデルは東日本大震災での支援経験から、トラウマを含む多様な心理的問題への支援を構造化したものです。私はこのモデルの有効性の検証や、より適切に用いるための援助技法の精緻化について、心理学的な実証研究を重ねています。
その他の研究テーマ
このほかにも、「いじり」、解決志向、家族内のコミュニケーション、家庭内の「お金」に関する会話の是非など、さまざまな研究に取り組んでいます。
研究アプローチ
当研究室では、質的・量的手法を組み合わせた多角的アプローチにより、実証的かつ理論的な研究を進めています。
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•自由記述調査・エピソード想起法による実体験の収集
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•テキストマイニングによる文脈・行動パターンの抽出と分類
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•シナリオ実験・質問紙調査・心理尺度の開発による構造的な行動評価
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•クラスタ分析・共分散構造分析(SEM)・多母集団同時分析による統計的検証
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•今後は、視線追跡装置の導入によって、非言語的な社会的文脈の認知過程の可視化にも取り組む予定です